今日で最後の抗がん剤が終わってからちょうど1年が過ぎた。
がんになってから自尊心をふくめ多くのものを失い、生活も大きく変わってしまったけれど、
まずは1年生き延びることができたことに感謝したい。
自分のことを書くのが嫌い。(だから自分の作品を説明するのも苦手)
なんだかわざとらしく思えたり、自分に酔っているように感じてしまうので。
だから他の人達のようにこういうことを書くことにかなり抵抗を感じていた。
でも、やっぱりおまけの人生の1年目を生き延びることができた今の心境や当時のことを
忘れないように書き残しておきたいと思う。
あなたの場合はかなりきつめになるからと何度も説明を受けたので覚悟はしていた抗がん剤。
けどあざのようなものが全身にできたり、頭を洗うとボトボトと音を立てて髪の毛の塊が落ちたり、爪の色が黒く変わり変な形になっていくのを眺める日々は想像以上にきつかった。
運ばれてくる食事のにおいに嘔吐し、まともに食べることができず、用を足すのも困難な日々を過ごしながら、普通に生活できることがどれほど幸せなことだったのかを強く思い知らされた。
テレビを眺めているとキラキラした人たちが楽しそうにしていて、うらやましかった。
もうあっちの世界には戻ることができない自分は何か人間とは違うもののように思えた。
抗がん剤2クール目くらいから副作用が強くなり、ぐったりとなりながら病院の真っ白な天井を眺めていると自分の人生がなんだか夢だったような気がしてきた。
そんな夢ももう終わるのかと考えながら思ったこと。
本当にやりたいことは何だったのか。
そんな夢の終わりに見た世界から始まった夢。
今はその夢を仕上げていきたいと思う。
がんのことを忘れたくても、テレビをつければがんの話やCM。
ネットをみればがんのニュースや広告。
世の中にはがんのことで溢れていて、楽しいことや嬉しいことがあってもすぐ現実に引き戻される。
更に3か月に1回の検査とその結果におびえる日々。
そんな夜のような毎日がもう明けることはないなら、その世界をそのまま生きていくしかない。
作品作りに集中している時だけはがんの事を忘れられるし、まだまだ頭の中にあるものをかたちにしていきたい。
そういえば、インディーズの頃からずっと大好きだったELLEGARDENがちょうど抗がん剤でボロボロになっているタイミングに「MountainTop」をぶらさげて帰って来てくれたのには驚いた。不思議なこともあるものだなと思った。その時の自分に一番必要な歌だったし、この歌を聴きながら踏ん張ったおかげで今があると思っている。
久しぶりに聴いてみよう。
指先に原因不明の痛みは残ってしまったけど、全身のあざのようなものも消えてきたし爪もきれいになった。
海外に石の買い付けも行けるようになったし、夏には大好きな宮古島で3匹の海亀と一緒に泳いだ。
来年、再来年、5年後、10年後はもっと元気になっているかもしれない。
とりあえずおまけの人生を楽しもう。
ちょうど1年前の抗がん剤が終わった日はすばらしく良い天気だったのをよく覚えている。
今日もすばらしく良い天気。
来年の今日も普通でいいから平和で穏やかでありますように。
2023年10月31日
fin de reve 生夜~ikuya~